海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「冬の裁き」スチュアート・カミンスキー

カミンスキー熟練の筆が堪能できる渋い警察小説。既に孫もいる老刑事エイブ・リーバーマンを主人公とするが、相棒となる刑事ハンラハンも重要な位置を占める。人生の黄昏時を迎えた刑事二人を狂言回し役に、罪を犯す者たちを見つめた〝人間ドラマ〟といった作風で、地味ながらも味わい深い物語が展開する。本作は、日本で初翻訳された1994年発表のシリーズ第3弾。以降、本国では第10作まで発表されているが、翻訳は第5作「憎しみの連鎖」まで。コアなファンを無視し、売れなければすぐに見切りを付ける現代の出版事情を考えれば、これでも長く続いた方かもしれない。

タイトル通り、厳しい冬のシカゴを舞台に、リーバーマンの甥が2人組の強盗に殺害されたケースを扱い、その発端から解決までの一日の流れを時系列で描いていく。当初は行きずりの犯行と捉えられた事件が、終局で予想外の真相へと辿り着く。淡々としていながらも、人生の機微までを伝える筆致が見事だ。
評価 ★★★☆

冬の裁き―刑事エイブ・リーバーマン (扶桑社ミステリー)

冬の裁き―刑事エイブ・リーバーマン (扶桑社ミステリー)