海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「静かなる天使の叫び」R・J・エロリー

ミステリとしてよりも、文学的な味わい方を求める作品で、苦労人らしい著者の人生経験と創作に懸ける意気込みが伝わってくる。

物語は、第二次大戦前夜の米国ジョージア州の田舎町に住む少年ジョゼフの一人称で進み、その後三十年にもわたって続くこととなる幼女連続殺人を中核とする。主人公は、刻々と変化していく環境の中で事件の謎を追い、遂には真相へと辿りつくのだが、結末で明かされる真犯人は唖然とするほど捻りが無い。そもそも謎解きで読者の興味を引っ張ることを放棄しており、物語の構成/展開も筆の赴くままに仕上げたという感じだ。ジョゼフが家族や隣人、学校の友人や教師など、様々な関係性の中でどう成長していくかを描くことに主眼を置いており、そのひとつひとつのエピソードにマロリーは力を注いでいる。特に、ニューヨークで暮らし始めたジョゼフが文学者の卵らと非生産的ながらも生き生きとしたやりとりを繰り広げるあたりは躍動感に満ちている。

章の合間には、真犯人と対峙している「今現在」の主人公の独白を挿入しているのだが、その暗鬱な悔恨は、やや過剰で緊張感に欠ける。衝撃性の薄いラストに、このパートは大袈裟過ぎて不要だろう。

評価 ★★★

 

静かなる天使の叫び〈上〉 (集英社文庫)

静かなる天使の叫び〈上〉 (集英社文庫)

 

 

 

静かなる天使の叫び〈下〉 (集英社文庫)

静かなる天使の叫び〈下〉 (集英社文庫)