海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「カジノ・ロワイヤル」イアン・フレミング

ジェイムズ・ボンドシリーズ第1作で、1953年発表作。英国秘密情報部の為すことは正義であり、悪と定義した国家/組織、邪魔立てする者には、超人的スパイを送り込んで葬り去るという単純明快さは、デビュー作から一貫している。西側諸国に恐怖をもたらす悪の権化共産主義の親玉ソ連の手先は、例え悲劇的な事情があろうとも容赦無く殲滅せねばならない。その使命を帯びた特権的エージェントであり〝ダブル零〟の称号を持つ者、すなわち007号こそが、偉大な大英帝国の敵に立ち向かう資格を持つ。本作のラストで能天気な決意を固めるボンド。その直前まで色に溺れるままに、或る女に騙されていた後の独白としては大いに滑稽なのだが。食と酒と車、さらには女について一過言持つ伊達男。拷問された直後に弱気になって引退を口にし、善と悪についての脆弱な問答を繰り広げるスパイ。どう読んでも格好悪いのだが、以降映画化もあって爆発的人気を得たのは承知の通りである。カジノ内でのバカラのシーンのみ面白い。

評価 ★

 

007/カジノ・ロワイヤル 【新版】 (創元推理文庫)

007/カジノ・ロワイヤル 【新版】 (創元推理文庫)