海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「凍りつく心臓」ウィリアム・K・クルーガー

元保安官コーク・オコナーを主人公とする1998年発表の第1作。実に十数年を費やして上梓した処女作というだけあって、クルーガーの創作に懸ける意気込みが伝わる力作だ。しかし、三人称一視点ではなく、場面によって他の登場人物へと描写が流れるため、ハードボイルドのテイストはかなり弱められている。マイクル・コナリーボッシュシリーズがハードボイルドたる所以は、ヒーローの一視点にブレが無いからで、自ずと物語の骨格において強度が高まる。視点が移るということは、時に構成に乱れを生じさせ、緊張感を途切れさせてしまう。本作は、ネイティブアメリカンとの共存関係の上に成り立つ街を舞台に、陰惨な事件を追っていくものだが、入り組んだプロットを視点の揺らぎが更に混乱させてしまっている。真相自体は単純で黒幕の正体も捻りが無い。単なるエピソードと伏線となる部分の描き分けが不明瞭なため、読んでいる最中はもどかしさを感じた。主人公と子どもたちとのふれあいなど心に残るシーンがあるだけに、もっとストレートに全体を削ぎ落としていけば、より厚味が出たのではないか。ラストシーンの惜別は、やや身勝手な印象。次作に期待する。

評価 ★★★

凍りつく心臓 (講談社文庫)

凍りつく心臓 (講談社文庫)