海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ランターン組織綱」テッド・オールビュリー

1978年発表作。派手さはないが、戦争によって引き裂かれた一家族の悲劇を描いた佳作。愛する者のために自ら犠牲となる、その覚悟は凄まじくも悲哀に満ちている。

英国警視庁公安部のベイリーはスパイ容疑のかかった男、ウォルターズの自宅を訪問する。確証もなく漠然とした質問をした直後、男は退席して自殺。衝撃を受けたベイリーは、平凡な人生を送ってきたかのようにみえた男の過去を探るために、唯一の手掛かりとなるパリの画廊へと向かう。
導入部は短く、謎に満ちた男の素性は明らかにされなまま、物語は第二次大戦中のドイツ占領下のフランスへと時を遡る。間近に迫った連合軍のノルマンディー上陸。英国工作員シャルルが現地のレジスタンスを統率、指揮するために潜入していた。レジスタンス活動は一枚岩ではなく、ソ連を標榜するフランス共産党員も多く含まれていた。終戦後の政権奪取を狙う一部の者は、ゲシュタポへの密告で仲間を売り渡し、解放の為に戦った勇士らは次々と捕らわれていった。勝利の日を目前にしていたシャルルは戦場で束の間の恋におちて結婚する。だが、裏切りによって拘束/拷問された後、強制収容所へと送られ、既に身籠もっていた妻にはシャルルの死が伝えられた。
物語は再び現代へ。自ら死を選んだ男の人生を追い続けいたベイリーは、レジスタンスの亡き英雄シャルルとの接点に気付く。シャルルが死んだのは事実か。ウォルターズの真意とは何だったのか。

非情な運命に翻弄されつつも、己の生きた証を最期まで守り通そうとした男の背中が哀しい。

評価 ★★★

 

 

ランターン組織網 (創元推理文庫 (218‐2))

ランターン組織網 (創元推理文庫 (218‐2))