海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「警鐘」リー・チャイルド

第1作があまりに完璧過ぎるため、後に続く作品が物足りなく感じるシリーズは、さほど珍しくない。読者に好評であれば、当然出版社は同じ主人公による継続を求め、著者は期待に沿うべく書き続けるのだが、エンターテイメント性を高めようとして、逆に失敗することもままある。要は活劇を主体とするシリーズが駄目になってしまう理由とは、どれだけ窮地に立たせようとも、「不死の主人公」がいる限りは適度な冒険の中に収まってしまうことにある。あれこれと余分な要素を加えることで弛緩を生じさせ、ヒーローらは須く「ジェイムズ・ボンド」或いは「ランボー」化しいていく。本作はその見本といえる。

「キリング・フロアー」が活劇小説として傑作なのは、鍛え上げられた強靱な肉体と戦闘能力、さらに冷徹な智力で瞬時に情況判断が出来る主人公が、持ち得る能力の全てを出し切って闘う姿を、五感を通して見事に活写しているからであり、予測不能の結末へと向かって疾走するスピード感/緊張感が分厚いカタルシスへと導いていたからだ。
第2作目から、三人称へと変えたこともマイナス要因で、転々と変わる視点のためにスリルが持続しない。かつての恩師の娘によって骨抜きにされるリーチャーの姿は、第1作でみせたストイシズムの片鱗も無く、個の闘いも精彩を欠く。活劇小説にロマンスが不要とは思わないが、本筋とは関係の無い色恋でボリュームを稼いでいるとしか受け取れない。さらに言えば、軍人にありがちな仲間意識、帰属意識が強調され、孤立無援の男というクールなスタイルも失われている。

評価 ★☆

 

警鐘(上) (講談社文庫)

警鐘(上) (講談社文庫)

 

 

 

警鐘(下) (講談社文庫)

警鐘(下) (講談社文庫)