海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ボストン、沈黙の街」ウィリアム・ランデイ

練られたプロットで、結末の衝撃性も高い。片田舎の警察署長の座を父親から継いだ若者ベンを主人公とする一種の教養(成長)小説でもあるのだが、ランディは大胆な捻りを加えており、章を追うごとにベンの凡庸性が修整されていく展開は見事だ。一人称のスタイルがミスディレクションの役割を担っており、終盤への布石となる伏線を配置しつつ、表面的には無関係と思われた幾つかの殺人事件をまとめ上げていく。過去へと遡りつつ謎を探る主人公の捜査が進行すると同時に、彼自身の闇が照射されていくという重層的な構成は結末に至り、そのままの重味で物語を破壊する。本作が主題とするのは、正邪の狭間で悪徳警官へと墜ちていく人間の業だが、クライマックスで一気にノワールへと変貌するさまは、単なる警察小説とは一線を画する。
評価 ★★★★

 

ボストン、沈黙の街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ボストン、沈黙の街 (ハヤカワ・ミステリ文庫)