海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「プラムアイランド」ネルソン・デミル

デミル版ヒーロー小説。NY市警のジョン・コーリーを主人公とし、以後シリーズ化されている。渾身の力作「誓約」を書き上げて以降、肩の力を抜いた娯楽作品を発表し続けているデミルだが、本作では冒険小説の要素を取り入れ、緻密な構成よりも怪しげな人物らが織り成す先の読めない展開の妙で読者を翻弄する。物語は二転三転し、前半と後半ではプロットの核が異なる。

舞台は、ニューヨーク州オリエント岬の沖合にある孤島「プラムアイランド」。そこに実在する動物疫病研究所に勤める科学者夫婦が何者かに殺され、ロングアイランドで静養中だったコーリーは地元警察からサポートを依頼される。エボラやコレラなどのウイルスを保管し研究するその施設は、政府特命による細菌兵器の開発が極秘裏に行われているという噂が絶えない。休職中の滞在先で殺された夫婦と友人関係になっていたコーリーは真相究明に乗り出すが、次第に事件の背後には見落とされた「穴」があることに気付く。やがて浮かび上がってきたのは、17世紀の或る歴史的人物が巻き起こした意想外のシナリオだった。

読みどころは、軽口を叩きつつ軽快に関係者をあたり孤軍奮闘するコーリーのタフネスぶりだろう。本作では、ストイシズムよりも「ノリの良さ」を優先しており、物語のテンポは終盤に向かうほど増していく。筋立ては「ホラ話」に近いが、大人のエンターテイメントとして割り切れば、充分に楽しめる。

評価 ★★★

 

プラムアイランド 上 (文春文庫 テ 6-12)

プラムアイランド 上 (文春文庫 テ 6-12)

 

 

 

プラムアイランド 下 (文春文庫 テ 6-13)

プラムアイランド 下 (文春文庫 テ 6-13)