海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「逃げる殺し屋」トマス・ペリー

殺し屋を主人公とするミステリは掃いて捨てるほどあり、生業としての新鮮味は無い。プロットや人物造形など、相当知恵を絞らなければ「いつかどこかで読んだ話」として片付けられてしまう。逆に先行作品との違いを出さなければならないため、作家にとっては挑戦し甲斐のある題材といえるだろう。
本作に登場する名無しの殺し屋は、準備/実行/逃走という過程で玄人ぶりを発揮するが、予期せぬ事態で人の記憶に残らないという大前提を崩される。「誰でもない顔」に傷を負ったことから綻びが生じ、司法省の捜査官のみならず契約を履行したはずの闇組織からも追われる羽目となる。
マンハント自体はクライムノベルのスタンダードからさして外れるものではないが、フリーランスとして日々の糧を得る殺し屋の「こだわり」、つまりはプロ意識の発露そのものが本作の最大の魅力となっている。殺しの方法には、実行する現場にある物を利用して擬装する。事故または病気に見せ掛け、不自然さを残さない。要は「殺された」という事実を隠滅する仕掛けを施すために、瞬時に判断し実行に移すのである。まるで諜報員の暗殺手段のようだが、このようなディティールがリアリティを感じさせ、追い詰められていく男が次にどう動くかという伏線となり、サスペンスを高めていく。
1982年発表MWA最優秀処女長編賞受賞作。無骨ながらも、手堅くまとめている。

評価 ★★★

逃げる殺し屋 (文春文庫 (275‐27))

逃げる殺し屋 (文春文庫 (275‐27))