デンマーク出身のニコラス・ウィンディング・レフン監督作品「Drive」(2011年)の原作。映画については〝門外〟であり、既に多くの評価がなされているため、私自身が敢えて付け加えることもないのだが、静と動の対比、日常の中で突如噴出する暴力の異常性、そして刹那的で感傷的な情愛の顛末を、シャープ且つクールに描いた秀作だと感じた。陰影を生かしたスタイリッシュな映像でモダンなノワールの世界を構築しており、特に寡黙でストイックな主人公のドライバーを演じたライアン・ゴズリングは嵌まり役で、狂気性を秘めた孤独な男の姿が鮮烈な印象を残した。それは、共演したキャリー・マリガンの憂いを含んだ眼差しを通してより一層際立っていくのだが、小説では表現しきれない映画ならではの創造性/美学を存分に味わうことができる。
ジェイムズ・サリス2005年発表の本作は、ほぼ映画で再現されていた通りの内容だが、ハードボイルドとしての強度はより高い。過去と現在の断片を繋ぎ合わせ、逃走車のドライバーという裏稼業に手を染めるまでの過程と、予測不能のトラブルによって追い詰められていくさまを渇いた筆致で描く。主人公を単にドライバーと表記し、極めてドライに活写。短い章を連ね、情景を深める。クライムノベルを修練した作家の技巧が冴えている。
評価 ★★★