海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「コールド・ファイア」ディーン・R・クーンツ

クーンツは自覚的に娯楽小説を書く。指南書「ベストセラーの書き方」で述べた創作術を自ら忠実に実践し、読者がエンターテインメントに求める要素を過不足無く盛り込む。構成や人物設定などはSF/ホラーの王道を行くもので安定感はあるのだが、クーンツ熟練の技で捻りを加えてはいるものの、「遊び」や「深み」といった点では物足りなさを感じることもある。

本作のメインプロットは、超人的な予知能力を身に付けた孤独な主人公が、「神の啓示」によって世界中の「選ばれし人々」を救っていくというもので、地方新聞の女性記者との恋愛模様も含め、いかにも大衆受けしそうなアメリカン・ヒーローの物語という印象。中盤の山場となる飛行機事故での脱出劇も極めて映画的である。

終盤までは「超能力」を何故身に付けたのか、という男のルーツを探っていくのだが、宇宙船や宇宙人といった〝ホラ話〟の挿入によって破綻すれすれとなり、読み進めることが苦痛となる。種明かしで何とか持ち直してはいるものの、クーンツの世界を堪能するには、ある程度の「純朴」さが必要であると感じた。

評価 ★★★

 

コールド・ファイア〈上〉 (文春文庫)

コールド・ファイア〈上〉 (文春文庫)

 

 

 

コールド・ファイア〈下〉 (文春文庫)

コールド・ファイア〈下〉 (文春文庫)