海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「殺戮者」ケネス・ゴダード

ゴダード1983年発表で、唯一翻訳されている作品。間近にオリンピックを控えたロサンゼルス近郊の地方都市を舞台に、不可解な警官殺しを発端とする陰謀の幕が上がる。特に主人公を設定せず、一夜にして街全体がパニックに陥っていく情景をドキュメントタッチで描いており、なかなかの力作だ。

 米国内部に根を張るアラブ系のテロ組織の依頼により、冒頭で〝プロ〟のテロリストが海を渡り上陸するのだが、途中で鮫に手こずるシーンを挿入しており、これが皮肉なラストへと繋がっている。警察対テロリストという図式でラストまで突っ走り、とにかく警官らがバタバタと殺されていく。ゴダード自身に科学捜査員としての経歴があるため、捜査活動の細かい描写は的確で、警官らのやりとりもリアリティに富んでいる。不条理な殺戮に激高し、テロリストを追い詰めていく刑事らの執念が横溢する。

 評価 ★★★