海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「混戦」ディック・フランシス

1970年発表の競馬シリーズ第9弾。フランシスの作品は骨格がほぼ共通しているため、肉付けするプロットの出来如何で面白さが大きく異なる。本作を一言で述べれば「薄い」。雇われパイロットを主人公に保険金詐欺の絡む事件をメインにしているのだが、終盤へと引っ張るエピソードが乏しいことに加え、姑息な悪事を働く悪玉が小粒なため、さっぱり盛り上がらない。シリーズの〝売り〟といってもいい主人公を痛めつけるサディスティックな展開も、己の甘さ/弱点を克服し窮地を乗り越えていく最大の見せ場も、お粗末なものだ。同じく〝B級〟とはいえ、筋立てが楽しい「重賞」(1975年)のような作品もあるため、この時フランシスは迷走していたのだろう。危機に陥った飛行機と管制塔とのやりとりで、いかにも「英国紳士」然とした冒険シーンもあるのだが、敵役のショボさのみが目立ち、全体的に味気ない作品になっている。生業は異なるとはいえ、イメージ的には画一的なシリーズの主人公たちを引き立てるのは、魅力的な悪役あってこそだと、あらためて感じた。

評価 ★

混戦

混戦