海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「カメレオン」ウィリアム・ディール

石油利権を巡る巨大多国籍企業の謀略と、その転覆を謀るために暗躍する正体不明の男〝カメレオン〟の対決を主軸とした1984年発表のスリラー。日本を主な舞台とした異色作であり、トレヴェニアン「シブミ」(1979)の影響が色濃い。ただ、外国人作家が陥りやすい〝誤解/曲解〟が多く、武道や禅の精神性、〝東洋の神秘〟的な風俗の描き方に過剰な面がある。あとに重厚な世界観に圧倒される傑作「27」を上梓するディールだが、本作の構成はやや粗く、中盤までは主要人物を絞り込みにくい。
冒頭では、世界各地で石油関連企業の関係者らが不可解な死を遂げていくのだが、彼らの生い立ちなり取り巻く情況をたっぷりと挿入した上で、突然物語から退場させるため、大方の読者は戸惑うだろう。提供する情報の多くが、後に繋がる伏線とはならないことが構成に乱れを生じさせている。だが、それらの枝葉が不用というのではなく、散りばめられたエピソードこそが面白いのが曲者ディールの特徴なため、厄介だ。しかも、全体の対立構造が明確になるのは終盤近く。それまでは、米国人作家によるエキゾティシズムたっぷりのニッポンで展開する暗殺者らの狂宴を楽しむしかない。

評価 ★★★

 

カメレオン (海外ベストセラー・シリーズ)

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