海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ボストン・シャドウ」ウィリアム・ランデイ

「ボストンの絞殺魔」を下敷きとする2006年発表のランディ第二作。前作「ボストン、沈黙の街」は重層的なプロットに唸る力作だったが、社会的な視野がさらに深まり、退廃的ノワールのムードも強まっている。
本作は、公私ともに犯罪と密接な関わりを持つデイリー家の三兄弟を主役とする。殉職した父親を継ぐ警察官で粗暴な長男、エリートの道を突き進む脆弱な検察官の次男、ドロップアウトして空き巣となった無頼の三男。この三人の行動をそれぞれに追うことで、軸となる事件に多角的な視点が加わり、物語が厚みを増している。

1963年11月ケネディ大統領暗殺直後。再開発の進むボストンで、主に高齢の女性を狙った連続殺人事件が発生、一向に解決する兆しもなく、市民を震え上がらせていた。暗い世相を背景に跋扈するギャング、独善的権力を笠に腐敗した為政者、両者と癒着し分け前にあずかる悪徳警官、真っ先に犠牲となっていく最下層の弱者たち。暗鬱な焦燥感によって荒廃した人心にシンクロするように正体不明の殺人者が徘徊。人格も生業も違うデイリー三兄弟は、必然的/運命的に不可解な猟奇的殺人の渦中へと飲み込まれる。畢竟、近親者が標的となり、血塗られた破滅へと導かれていく。

1964年に「ボストンの絞殺魔」は一応の解決をみているが、収容先の刑務所内で殺された男は真犯人ではなく冤罪だったという説もある。ランディは、当時のボストンの社会状況を絡めつつ、いまだ謎の多い事件を独自に解釈した上で、一家族が脆くも崩壊していく有り様を描き切る。

評価 ★★★

 

 

ボストン・シャドウ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 281-2))

ボストン・シャドウ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 281-2))