海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「水時計」ジム・ケリー

ケリー2003年発表の処女作。地味ながらも繊細な文章で、舞台となる地方都市イーリーの冷たくも美しい情景を描き出している。凍結した川から引き揚げられた車に身元不明の他殺体が発見される冒頭から、嵐の中で殺人者と対峙する終幕まで、物語の底流には淀んだ水がうねり、渦巻く。主人公ドライデン自身が水に呪われた存在で、不慮の事故によって運転していた車が水没、同乗の妻のみが長期にわたる昏睡状態へと陥っている。新聞記者でありながら、取材には旧友のタクシーを利用。そのトラウマが追い掛ける殺人事件と絡み合うことで物語に厚みが増し、単なる謎解きから脱している。だが、事件の鍵となる多くの事実は知己の刑事からもたらされているため、記者としての力量が感じ取れず不満が残る。ただ、過去と現在を繋ぎ真相を探っていくプロットは緊張感に満ちており、陰影のある世界観にも好感が持てた。

評価 ★★★

 

水時計 (創元推理文庫)

水時計 (創元推理文庫)