海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ノース・ガンソン・ストリートの虐殺」S・クレイグ・ザラー

ヴァイオレンス主体の無味乾燥な凡作で、カタルシスも無く、単に下劣な作品といった印象。米国片田舎にある腐敗した警察と町に蔓延るギャング団とのケンカ/縄張り争いを描いているのだが、「やられたら、やりかえす」という短絡的な復讐の連鎖のみで展開し、冒頭から結末まで印象に残る情景がひとつもない。要は、この作家が何を主題に書いたのか、という創作の基点が分からない。仮に本作のような、警察官自体に「正義」という倫理観が欠如した物語にするのであれば、アイロニーも含めた社会批判性や、無常/虚無感など少なからず感じ取れるはずだが、殺伐とした文体と起伏のない構成、なおざりな人物造型から伝わるものは、限りなく「ゼロ」だ。主人公の刑事をはじめ登場人物は須く俗物で、含蓄のある言動など望むべくもない。挑発/攻撃に対して、即の宣戦/リベンジが条件反射。教養のある人物は皆無で、警官を含めて悪人は小物ばかり。通常であれば、物語を大きく揺り動かすはずの復讐のエピソードは共感できず、〝売り〟であるというヴァイオレンス・シーンも中途半端で退屈。中身は薄く、ひたすらに長い。味気ない文章でテンポ良く読めるというのが唯一のプラス点だ。

評価 ☆

 

ノース・ガンソン・ストリートの虐殺 (ハヤカワ文庫NV)

ノース・ガンソン・ストリートの虐殺 (ハヤカワ文庫NV)