海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「パラダイス・マンと女たち」ジェローム・チャーリン

〝嫉妬する〟殺し屋を主人公にした風変わりな犯罪小説。幕開けのムードは良いものの、プロットはぎこちなく、中途で破綻している。謎解きの要素は皆無、ノワール色も薄い。

舞台はニューヨーク。物語は、その裏社会で繰り広げられる抗争を軸とする。キューバの地を追われた者どもが集う犯罪組織ラ・ファミリア、同じくカストロが追い出したバンディードと呼ばれる密教を母体とする新興ギャング、さらにマフィアと結託し権力を振るう地方検事ら。激化する縄張り争いは、血と暴力と死を必然のものとした。裏組織の隠れ蓑でもある毛皮会社、その副社長の肩書きを持つホールデンの主業は、借金取りと殺しだった。
一撃で天国送りとすることから、パラダイス・マンと呼ばれた男は、殺しの仕事の現場に居合わせた〝豹の目を持つ少女〟を保護する。同時期に有力者の娘が誘拐され、ホールデンは奪還の依頼を受ける。即日一味を抹殺するが、誘拐犯の一人は殺し屋の幼なじみだった。誘拐された女は、眼前の殺戮にショックを受ける様子もなく、やがてホールデンに身を委ねていく。

パラダイス・マンが出会う、さまざまな境遇の女たち。だが、〝ファム・ファタール〟というよりも、俗物的で魅力には乏しい。殺し屋は非情ではあるが、己の情欲には忠実で、見境無く嫉妬する。さらには、展開上不可欠な裏切りに対する復讐を完遂しない。愛する女を再び手にするために、保身に走る冴えの無さ。どうにも、歯痒くキレが無いのである。
殺し屋の一貫性の無さは、犯罪小説に対する著者のアイロニカルな考え方を反映しているのか、それとも〝新感覚〟という体の良いスタイルを押し出しているのか。何れにしろ、スタイリッシュさよりも無骨さが際立つ。

評価 ★

 

パラダイス・マンと女たち (ミステリアス・プレス文庫)

パラダイス・マンと女たち (ミステリアス・プレス文庫)