海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「マギの聖骨」ジェームズ・ロリンズ

疾風怒濤の勢いでスリラー界に名を馳せるロリンズの「シグマフォース・シリーズ」〝第1弾〟。全編クライマックスという表現が相応しく、加速度的に疾走するストーリーには圧倒される。冒頭から結末まで凄まじい量の情報を盛り込みながら、破綻することなく力業でまとめ上げる技量は相当なものだ。しかも、今なお精力が衰えることなくシリーズ続編や単発の冒険小説を量産し続けているのだから、その底力は計り知れない。

キリスト生誕祝福の伝説が残る「東方の三博士〝マギ〟」。その骨として伝わる遺物は、ドイツのケルン大聖堂などで保管されていたが、古代の錬金術師と暗殺者の秘密結社「ドラゴンコート」が襲撃し強奪。聖堂内の教徒らは奇怪な殺傷兵器によって惨殺されてしまう。「聖骨」が秘める力とは何か。それを手にした闇の組織が狙うものとは。ヴァチカンは最終的にアメリ国防省内の機密組織「シグマ」に応援を要請。特殊部隊の精鋭グレイソン・ピアースらはヨーロッパや中東へと飛び、古代にまで遡る謎を解明しつつ、狂信者グループとの戦いへと身を投じていく。

物語は、遺跡などを巡る謎解き中心の「静」と、敵との戦闘を繰り広げる「動」のパートを交互に展開する。まず、最先端の科学技術を駆使し、古代文明や秘教が絡む未知の秘宝などからヒントを得て、闇組織/陰謀の実態へと迫る。そして、次の扉を開く鍵を入手した瞬間に、満を持して悪党らが登場。現代兵器が飛び交う中で、激烈な肉弾戦を繰り広げるハリウッド映画張りのアクションシーンへと切り替わる。

探究の章がある程度進行すると、必ず危機的状況下での活劇へと移るため、構成自体は単調である。この「お約束」的な流れは本シリーズ最大の魅力であり、逆に予定調和となる欠点でもある訳だが、主人公らが難局を乗り越える手法はアイデア満載なため、最後まで飽きさせることはない。要は「ゲーム感覚」のエンターテインメント作品というイメージが色濃く、その意味では現代の読者にアピールする力を持っている。

クロスオーバーする「科学とオカルト」を主軸に、派手なアクションシーンを織り交ぜた新たなヒーロー小説。本シリーズが根強い人気を誇る理由も頷ける。

評価 ★★★★

 

マギの聖骨 上 (シグマフォース シリーズ1)

マギの聖骨 上 (シグマフォース シリーズ1)

 

 

マギの聖骨 下 (シグマフォース シリーズ)

マギの聖骨 下 (シグマフォース シリーズ)