海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「奪回」ディック・フランシス

1983年発表の競馬シリーズ第22弾。後にフォーサイスが「ネゴシエイター」でも題材とした誘拐交渉人を主人公とする。
犠牲/被害を最小限に抑えるべく、如何に行動し解決へと導くか。その心理的な駆け引きが最大の読みどころとなるが、本作のミソは交渉人が誘拐対策企業に勤める派遣スタッフの一人に過ぎないという点にある。通常は防衛策を施すサポートに徹し、不幸にも誘拐となった場合には犯人との交渉、奪回まで責任を負う。要人を対象とする誘拐事件は国内外問わず発生する恐れがあるため、ネットワークを駆使できる専門企業の創出は、リアリティを持たせる上でも不可欠だったのだろう。
当然、警察や関係者らとの連携/折衝など、瞬時の処理能力と大胆且つ柔軟な交渉術が求められるため、心身共にタフでなければならない。フランシスの着想は当を得ており、これまでのストイックで頑強な精神を持つヒーロー像は、そのまま本作に於いても生彩を放つこととなる。
卑劣で狡猾な誘拐をテーマとする物語は、やや中弛みはありながらも結末まで緊張感を失うことはない。特に終盤に於ける誘拐犯、交渉人相互の「逆転劇」は周到で、流石はベテランといったところ。最後の最後で間抜けな失策を犯す誘拐犯の腰砕けぶりには脱力したが。

評価 ★★★

 

奪回

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