海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「レイドロウの怒り」ウィリアム・マッキルヴァニー

1983年発表、グラスゴウ警察犯罪捜査課警部ジャック・レイドロウを主人公とする第2弾。前作「夜を深く葬れ」よりも更に硬質で濃密な文体となり、一文一文を読み飛ばすことが出来ない。一読しただけでは、重層的な修辞まで読み取ることは不可能だと感じた。思索する刑事レイドロウは、より一層渋みを増し、その一徹ぶりも強固になっている。物語自体は拍子抜けするほどシンプルな筋立てなのだが、レイドロウが歩むほどに情景が揺らぎ、相貌を変えていく。警察小説というよりも、クライムノベルやノワールに近い肌触りだ。
何層にも塗り重ねた油絵のような色彩の群像劇。都市と人間を主題としたアフォリズムの集積であり、人倫の荒廃/軋みを社会学の手法を用いて活写した小説。ミステリという枠組みを超越した「マッキルヴァニーの文学」としか例えようのない世界観で読み手を圧倒する。

評価 ★★★★

レイドロウの怒り―レイドロウ警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1445)

レイドロウの怒り―レイドロウ警部シリーズ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1445)