海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「深い森の灯台」マイクル・コリータ

ホラーと謎解き/ミステリのクロスオーバーは格別珍しいものではないが、重点の置き方で印象はがらりと変わる。いかにして読者を怖がらせるか、心理的に追い詰めていくか。謎が魅力的であればあるほど、闇が深ければ深いほど、物語は面白くなる。

海から遠く離れた深い森の中に奇妙な姿をさらす灯台の周辺で、断続的に起こる不可解な死。保安官代理キンブルは、灯台の建築主であり、住人でもあった老人が死の間際に残した言葉から、過去と現在を繋ぐ糸を手繰り始める。折しも、麓に移転してきた猫科大型獣の保護施設では、夜な夜な虎や豹がただならぬ気配を感知し、脅え、咆哮した。主のいない塔からは光が放たれ続け、それに呼応するが如く妖しい青い松明が闇の中を彷徨う。やがて、大事故や殺傷事件が灯台を取り囲む限定エリア内で起こっていた場合、本来なら死んでいるはずの人間が奇跡的な生還を遂げていた事実が明らかとなる。事態は重苦しい狂気の様相を呈し、キンブル自身の運命をも大きく変えていく。

文章は平明ながら、色彩や音、匂いや肌触りなど五感を刺激する描写で、異常な情景を的確に伝えている。真相を探るほどに、深層へと墜ちていく謎の実体。終盤へ向かうほどに、高まり、重みを増す緊張/重圧感。その構成力は見事で、クライマックスでは一気に暗黒のトランスへと導く。
生と死の境界を越えることの恐怖、日常と〝異形〟の世界を超えることへの麻薬のような陶酔。本作を読み終えて真っ先に浮かんだのだが、ハードボイルドとオカルトを見事に融合させたウィリアム・ヒョーツバーグの傑作「墜ちる天使」だった。プロットやムードは異なるものの、宿命に抗う人間が辿る末路、その無常観に共通するものを感じた。両作とも、余韻は重く、ひたすらに哀しい。

評価 ★★★★

 

深い森の灯台 (創元推理文庫)

深い森の灯台 (創元推理文庫)