海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「大統領に知らせますか?」ジェフリー・アーチャー

英国の政治家で小説家のアーチャーは、下院議員時代に偽証罪で投獄されるなど、その波乱に満ちた半生は広く知られている。実刑判決を受けて2年にも及ぶ刑務所生活を送り、出所後に発表した獄中記がさらに話題になるなど、転んでもただでは起きぬ逞しさ/図太さを持っている。当然のこと創作にも生かされ、現在もベストセラーを連発する旺盛な活動を続けている訳だから、バイタリティ溢れる〝曲者ぶり〟には感服せざるを得ない。

本作は、題材としては使い古された米国大統領暗殺計画をストレートに描いたものだが、エンターテインメント性を重視し、スパイスの効いた味付けで巧みに料理している。旧版ではケネディ家の四男エドワードが大統領となる近未来の設定、新版では米国初の女性大統領としている。この変更は大した差ではなく、メインとなるのは暗殺グループの割り出しと、決行阻止までのタイムリミット・サスペンスである。誰が主人公なのかを明確にしない序盤の展開には驚くが、徐々にFBI新人捜査官アンドリューズの活躍に焦点を絞りつつ、多彩なエピソードを交えてテンションを上げていく。

自らストーリーテラーを名乗るだけあって筋運びは巧く、読者を楽しませるこつをしっかりと押さえている。ストーリーには絡まないが、ウォーターゲート事件のスクープで名を馳せた「ワシントン・ポスト」のバーンスタイン記者も一瞬登場させている。大統領が狙われる原因となった銃砲所持規制法案に対して、時流を読み自説をさっさと曲げる上院議員の釈明会見、その卑しい保身ぶりを嗤うバーンスタインの「合いの手」が傑作だ。さらには物語の中で何度も繰り返される「大統領に知らせますか?」という問い掛けが、時と場合によって重みを変えていく。その苦いユーモアとシニシズムを漂わせた筆致が、本作の魅力をより一層高めている。枝葉の面白さが物語全体に生彩を加え、軽快なリズム/テンポを生み出す。アーチャー会心のスリラーといえる。

評価 ★★★★

新版 大統領に知らせますか? (新潮文庫)

新版 大統領に知らせますか? (新潮文庫)