海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「深海の大河」エリック・ローラン

フランスのジャーナリスト兼作家ローランのセス・コルトンシリーズ第2弾で2003年発表作。謳い文句は「現代のジェイムズ・ボンド」で、全体のイメージも概ね近い。但し、主人公は国家機関のスパイではなく、あくまでも私的組織の一員。〈委員会〉と称するその極秘チームは、科学技術開発の暴走を抑制することを目的とし、秘密裡に問題を処理していた。必然的に崇高な思想のもとで、莫大な軍資金を調達できる富豪の経営者や科学者のみで構成。〝世界一のメディア王〟〝ノーベル賞受賞生物学者〟〝情報科学者〟など、政財界や数多の機関に強力なコネクションと影響力を持つ実力者らが名を連ねる。コルトンは、諜報と戦闘活動を行う唯一の工作員として〈委員会〉の命を受けて〝悪〟に立ち向かう。要は、〝地球防衛軍〟的なヒーロー小説の体裁で荒唐無稽の感は否めないが、劇画として割り切れば、思い切りの良い活劇が楽しめる。

当然、この大胆な〝正義の側〟に匹敵する〝魅力的な悪役〟の設定が必須となるが、本作に登場する集団はなかなか凄い。世界の叡智を結集した狂信的〝環境テロリスト〟の結社。前人未踏の科学技術を用いて企てる陰謀。目論むのは、環境破壊の元凶となる人口増殖に歯止めをかけること。グリーンランド海流を操ることで異常気象を誘発して増え過ぎた人間を抹殺、有史以前と同様の地球環境にまで引き戻すという途方もないもの。通常の潜水艦では到達できない9千メートルの深海に基地を造り、主に地底での爆破によって海流の流れを変え、人工的な天災をあらゆる地で発生させる。長い時間をかけて生態系は壊され、結果的に人間が住めない世界へと変わるという訳だ。狂ったユートピア思想だが、地底の鉱物はしっかりとカネに変える現実主義の面も備えている。そもそも、地球環境を守るために、まず全てを打ち壊す独善的思考/視野の狭さが、ヒーロー小説でのみ輝く悪役たる所以だ。

物語冒頭では、既に世界各地で頻発する異常気象によって多くの人が犠牲となっている。事態を危惧した〈委員会〉は調査を開始。間もなく海洋研究所を隠れ蓑とする悪の組織を突き止め、工作員派遣を決める。新人研究員として擬装したコルトンは氷河下の海底基地に潜入、組織の全貌へと迫っていく。

強引に話を展開し、構成の粗さが目立つものの、筋立ての面白さで引っ張る。
本作の読みどころは、驚異的な性能を誇る潜水艇を使った戦闘にあり、未知の深海でマッハを超えたスピードで航行する迫力のあるシーンが味わえる。どちらかといえば、映像向きのプロットだが、新たな「007」の登場を待ち望む読者には大いに受けたのだろう。
終盤での因果応報的な悪役らの最期には、寂寥感さえ漂う。これもまた、ヒーロー小説ならではのテイストといえる。

評価 ★★★

 

深海の大河―セス・コルトンシリーズ (小学館文庫)

深海の大河―セス・コルトンシリーズ (小学館文庫)