海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「リボーン」F・ポール・ウィルスン

「ナイトワールド・サイクル」6部作の第4部。最終作「ナイトワールド」の壮絶なるクライマックスへ向けて、再び善と悪との闘いの火蓋が切られる。稀代のストーリーテラー、ウィルスンの筆致は益々冴えわたり、後半の序章に過ぎない本作も一気に読ませる。

非人道的な優生学によって、究極の戦闘要員の誕生を目論んだ遺伝学者は、己の遺伝子のみでクローン人間を生み出すが、政府の支援は得られずに愚行は頓挫する。母親を持たずに生を受けた男は成長し、やがて妻を持つ。男は、遺伝学者の死によって己の出生の秘密を知ることとなるが、同時に卑しい記者によって世間に暴露され、狂信的キリスト教徒との紛糾の中で、悲劇的な最期を遂げる。その時、妻が受胎していたことも知らず。

魔人ラサロムの蘇生は、このような無惨な人間の悪業に付け込まれて謀られるという設定が巧い。だが、それを予期して対峙する側をキリスト教徒とした構図は、いささか単純過ぎると感じた。ただ、アイラ・レヴィンローズマリーの赤ちゃん」へのオマージュでもある本作が、本家よりも数倍面白いのは確かである。

老いたヒーロー・グレーケンは、本作では傍観者に留まり、沈黙とともに退場していく。

評価 ★★★

 

リボーン―ナイトワールド・サイクル (扶桑社ミステリー)

リボーン―ナイトワールド・サイクル (扶桑社ミステリー)