海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「第八の地獄」スタンリィ・エリン

短編の名手として知られるエリン1958年発表のMWA長編賞受賞作。翻訳者はロス・マクドナルド成熟期の名作を手掛けて名高い小笠原豊樹。主人公は、若くして私立探偵社を継いだマレイ・カークで、ハードボイルドまでとはいかないが、ストイックで感傷的な世界を構築している。

もぐり馬券屋の絡む大掛かりな摘発で多くの汚職警官らが挙げられる。その中の一人アーノルドは賄賂受取を否定、弁護士を通じてカークは調査を始めるが、集まる証拠は有罪に繋がるものばかりだった。やがてアーノルドの婚約者である美貌のルースに惚れたカークは、心中では有罪の立証を望むようになる。
本作に殺人の謎解きは無く、探偵の恋愛を絡めた人間ドラマとして描いている。タイトル「第八の地獄」に繋がるインパクトには欠けるが、情景描写は丹念で、読後感は爽やかだ。
評価 ★★★
 
第八の地獄 (ハヤカワ・ミステリ文庫 36-1)

第八の地獄 (ハヤカワ・ミステリ文庫 36-1)