海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ハメット」ジョー・ゴアズ

当然だが、ダシール・ハメットをメルクマールとするハードボイルド作家は多い。ハメットと同じく探偵から小説家へと転身したゴアズの思い入れも相当で、伝説の男を主人公とするミステリを完成させた。発表当時は大いに話題になり、映画化もされている。実在した作家を主人公にして物語を作る。簡単のようで、実際はかなりの難題に違いない。同じハードボイルド作家でも、チャンドラーではサマにならない。私生活に於いても反骨の男だったハメットだからこそ成立する。

舞台は1928年のサンフランシスコ。禁酒法施行下での密造酒製造と密売を糧にギャングが台頭し、政治家や警察への賄賂が蔓延する。その一掃を図るために市の浄化委員会に雇われていた探偵が殺された。旧友の死の真相を探るためにハメットは再び昔の稼業へと戻り、卑しい闇社会の奥深くへと潜り込んでいく。

 ハメットをはじめとする人物造型や情景描写は巧いが、雑然としたプロットに難があり、物語としてすっきりしない。史実織り交ぜたエピソードは興味深いが、ハメットの魅力は、その作品自体にあることを再認識する結果だった。

評価 ★★

 

ハメット (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ハメット (ハヤカワ・ミステリ文庫)