海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ごみ溜めの犬」ロバート・キャンベル

シカゴの「民主党27区」地区班長ジミー・フラナリーを主人公とするシリーズ第一作。変わった設定ではあるが、党の宣伝を兼ねつつ市井の人々に触れ、相談事に乗り、時に問題を解決していくという役割は、報酬を求めない変種のトラブルシューターといったところか。政治的な活動としては末端に位置しながらも、地区住民らの状況を生身に感じ、その喜びや哀しみを共有していく。力を持たない彼らに代わり、理不尽な悪政や暴力に怒り、敢然と立ち向かっていくさまは、ヒーロー小説としてのスタイルに沿うものだ。

堕胎診療所で爆発事件が発生し、フラナリーの知人であった老婆と、身元不明の若い娼婦が犠牲となる。腑に落ちないフラナリーが探るうちに、事件の背後には腐敗した政治家と結託したギャング組織のボスによる真犯人隠蔽の事実が明らかとなる。「ごみ溜めの犬」と自嘲しつつも、報われない者のために真相を探り、卑しい街の「ごみ」を排除するフラナリーの闘いは、ハードボイルドの新しい息吹を感じさせる。

評価 ★★★★