海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「悪魔の収穫祭」トマス・トライオン

1973年発表のモダンホラー。タイトルにあるような〝悪魔〟が登場する超常現象を扱うのではなく、土着信仰の残る未開の村に移住した家族の恐怖体験を中心に描いていく。上下巻の長い小説だが、悪夢のような出来事が発生するのは終盤のみで、大半は独自のしきたりによって生活を送る農民らと、ニューヨークから移住してきた三人家族が交わっていく日常の様子が延々と綴られる。といっても、トライオンの筆力は相当なもので、さまざまなエピソードを積み重ねつつ、徐々に緊張感を煽っていくので飽きさせることはない。トウモロコシ栽培を生業とする部落が、古来からの祭事に則りつつ、種蒔きから収穫期を迎えるまでを、移住者である主人公の目を通して描写し、牧歌的でありながらも未知の戒律に縛られた土俗としての怖さを表現する。過去から連続して起こっている住民の不可解な死、次第に因習へと取り憑かれていく妻と娘、収穫祭へと向けて村全体に漂う不穏な動き、さらには隣人の眼球無き男の正体など、伏線を張り巡らせて、狂瀾の終幕へと進んでいく。終章は本当に恐ろしい。
評価 ★★★★

 

悪魔の収穫祭〈上〉 (角川文庫)

悪魔の収穫祭〈上〉 (角川文庫)

 

 

 

悪魔の収穫祭〈下〉 (角川文庫)

悪魔の収穫祭〈下〉 (角川文庫)