海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「パードレはそこにいる」サンドローネ・ネダツィエーリ

2014年発表、希少なイタリア・ミステリの翻訳だが、異国情緒的な味わいはなく、新たな支流ともなっているダークな犯罪小説の色合いが濃い。プロットや人物設定も凡そ時流に倣っており、新鮮味はさほどない。トラウマを抱えた主人公、場面転換の早いテンポ重視の構成、不可解な動機、猟奇的な連続殺人、形骸化した警察/検察機構との確執など、舞台をアメリカに移したとしても違和感はない。主要人物には極端な個性を与えており、キャラクターのユニークさで読ませるミステリともいえる。
本作は、ルメートル「アレックス」やオールスン「特捜部Q―檻の中の女―」などでも題材としていた〝監禁〟をプロットの核にしており、その人倫無視の凶悪性を〝探偵役〟となる男「ダンテ」自身に直結/具現化させている。少年時代に誘拐され、11年間にわたる監禁生活を送るとういう過去を持ち、脱走後は失踪人捜索専門のコンサルタントとして生計を立てる。その異常な設定が、良くも悪くも物語を動かしていく。

ローマで起きた児童失踪事件で警察から協力を求められたダンテは、その犯行現場で自らを誘拐した男「パードレ」の痕跡を視る。だが、「パードレ」と思しき人物は既に死んだものとされていた。当然のこと心的外傷による妄想と周囲は受け止めるが、相棒となる女性捜査官コロンバと行動を共にする中で徐々に判明していく事実は、未だ正体不明の犯罪者「パードレ」へと導くものだった。

極度の閉所恐怖症となったダンテの描写は、いささかデフォルメ過剰な点があるのだが、過去の呪縛と真正面から向き合い、どう克服するか、というテーマも含めているのだろう。肝心の真相については、大風呂敷を広げ過ぎて、整理仕切れていないため不満が残る。下手な陰謀よりも人間の闇に焦点を当てた結末を期待していたためだろう。

評価 ★★☆

パードレはそこにいる (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

パードレはそこにいる (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 

パードレはそこにいる (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

パードレはそこにいる (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)