海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「8(エイト)」キャサリン・ネヴィル

ネヴィル1988年発表作。女流作家ならではのロマンス色の濃い〝冒険ファンタジー〟で、伝説のチェス・セット「モングラン・サーヴィス」を巡る争奪戦を、史実を織り交ぜながら描く。とにかく長大な物語で、相当な労力を費やしたことが伝わる力作ではあるのだが、あれもこれもと詰め込み過ぎて、結果的には大風呂敷からほとんどこぼれ落ちてしまっている。全編が劇画調のドラマ仕立てのため、ゴシック小説好きなら楽しめるのだろうが、私にはどうにも食指が動かない代物だった。

物語は、18世紀末のフランス革命後の混乱期と70年代の現代を交互に舞台とする。時代を超えて真相を追い求めることとなる〝ポーン〟役の女性二人を主人公とし、実在した歴史的人物を大量に登場させて絡めていく。権力掌握を目論む者には悪魔的な力を発揮するという「モングラン・サーヴィス」を手にするため、革命家や皇帝らが暗躍。さらには、ヨーロッパ中の著名な芸術家や哲学者、科学者らは、須く死の直前まで、その謎の解明に取り組んだ探求者であったという説を強引に押し付ける。しかし、核となるチェス・セットがどのような「奇跡」をもたらすのかを知ることができるのは、結末ぎりぎりになってから。それまでは、次から次へと登壇する歴史的人物にまつわる実像/虚像ごたまぜの挿話と神秘にまつわる蘊蓄を延々と読まされる羽目になる。ある程度のケレン味は必要だが、終始はったりを利かせていては、肝心の山場が極めて薄くなってしまうことは当然である。謎の解明は、ようやく終局で果たされるのだが、誰でも思いつくオカルト的な〝落ち〟では尻すぼみも甚だしい。

数多の偉人が生涯を賭けて追い求めた真相に、「コンピュータ専門家」である選ばれし女性のみが辿り着けるというご都合主義。世界にまたがる錚々たる面子が、最終的には血縁者として繋がり、小さなファミリーへと収縮して「見事な大団円」を迎えるという竜頭蛇尾。いったい、ここまでの道程は何だったのかと、溜め息しきりだった。

評価 ★★

 

8(エイト)〈上〉 (文春文庫)

8(エイト)〈上〉 (文春文庫)

 

 

 

8(エイト)〈下〉 (文春文庫)

8(エイト)〈下〉 (文春文庫)