海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「最高の銀行強盗のための47ヶ条 」トロイ・クック

軽快なタッチの疾走感を楽しむクライムノベル。
レビューとしては以上で事足りる。器用だが深みに欠けるため、読後に何も残らない。個性的な小悪党らを多数配置し、適度なユーモアを交えたエピソードは多彩だが、コメディにしろ、シリアスにしろ、物語へと惹き付ける強度が足りないと感じた。決して悪くはないが、良くもない。要は読者の好み次第だろう。

主人公タラ・エバンズは、銀行強盗を生業とする父親ワイアットに幼い頃から手ほどき受けてきた。22歳となった今も拘束/ガードされ、不満を募らせている。現状に耐えかねたタラは、或る田舎町で一目惚れした保安官の息子マックスを連れて飛び出す。血気盛んな21歳の若者は喜び勇んで強盗の真似事を始めるが、怒り狂ったワイアットは、娘を取り戻すべく跡を追う。当然の流れでマックスの父親も参戦、さらにはワイアットが隠し持つ金を狙う間抜けな元仲間らも乱入。若い犯罪者二人を巡ってのドタバタ劇が急ピッチで展開していく。

本作の登場人物で唯一「異質」な存在が、狡猾な犯罪者ワイアットで、その不快なまでの狂気/残忍性が、爽快なイメージとなるはずの全体をぶち壊している。表題でもある「最高の銀行強盗のための47ヶ条」は娘が継承し、事あるごとに呟くのだが、含蓄や捻りが無いのも痛い。

巻末の解説では、村上貴史が著名な作家を並べて絶賛に近い評価をしている。犯罪小説界隈の簡単なガイドともなっており、実は本編よりも為になる。しかし、本作はハイアセンの社会悪に対する批判精神も、ウェストレイクの犯罪者へのドライな眼光も、レナードのモダンで柔軟なスタンスも、さらにはブレイクのアウトローらの愛に満ち溢れたパッションも、残念ながら感じ取ることは出来ない。本作結末の甘さは、その「物足りなさ」を端的に示している。

評価 ★★☆

 

最高の銀行強盗のための47ヶ条 (創元推理文庫)

最高の銀行強盗のための47ヶ条 (創元推理文庫)