海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「死が二人を」エド・マクベイン

1959年発表の「87分署シリーズ」第9作目で、スティーヴ・キャレラの妹が結婚する一日に巻き起こる騒動を描いた番外編的な一編。他の作品に比べて舞台設定や登場人物は限定されているが、その分ストーリーは淀みなく快調で、マクベインの技倆を存分に堪能できる一作となっている。
結婚式当日に届いた義弟への脅迫文に端を発する物語は、隣人の不可解な殺人事件を絡めつつ、ドタバタの様相を呈していくのだが、読者のつぼを押さえた起伏をしっかりと盛り込み、無理のない展開でまとめ上げている。招待客でもある刑事らは、華やかで賑やかな現場で混乱しつつも、プロとしての能力を発揮。事件の発生から解決までがリアルタイムで進行する中、個性溢れる登場人物が奔走するさまはスピード感に満ちている。
肉体派のコットン・ホースが〝最強の女〟に出し抜かれるなどエピソードも豊かで、何よりもファンにとって本作が印象深い作品となるのは、この日にキャレラの愛妻テディが双子を産むことだろう。刑事達が繰り広げる喜怒哀楽のドラマが、いつのまにか我が身のことのように感じられること。この共感の度合いが高いのは、マクベイン熟練の腕あってこそである。

評価★★★

 

死が二人を (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 13-10))

死が二人を (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 13-10))