海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「追いつめられた男」ブライアン・フリーマントル

元英国諜報部員チャーリー・マフィンが7年間に及んだ逃亡生活に終止符を打ち、新たな展開へと向かう1981年発表のシリーズ第5弾。これまでと同様の緊張感を保ちつつ、後戻り出来ない闘いへと赴く孤独な男を活写する。人物造形の巧みさについては改めて述べるまでもないのだが、フリーマントルの作品に重量感があるのは、端役に至るまで登場人物をしっかりと印象付ける技倆が卓越しているからだろう。非情な諜報戦のただ中で、人知れず犠牲となっていく者どもの悲哀を冷厳に描き出し、謀略と裏切りが渦巻くスパイ小説の世界観をより鮮烈に刻み付ける。

評価 ★★★

追いつめられた男 (新潮文庫―チャーリー・マフィンシリーズ)

追いつめられた男 (新潮文庫―チャーリー・マフィンシリーズ)