海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ロンドン・ブールヴァード」ケン・ブルーエン

アイルランド人作家ブルーエンが、影響を受けた犯罪小説家らに捧げるオマージュ。一人称による切り詰めた文体、テンポ良く場景を切り替えていく映像的な手法で、シニカルでダークな世界を構築している。頽廃と昂揚、無情と熱情を対比させつつ、ノワールのエッセンスを凝縮。登場人物らの狂気と紙一重の挙動から伝わるのは、実存的不安を抱えるニヒリズムだ。ただ、ストーリー自体は分かりやすいため、ジェイムズ・エルロイジム・トンプスンの〝危ない〟作品をいきなり読んで拒否反応を起こされるよりも、本作のような〝軽め〟のノワールが入門編として適している。ちなみに、エルロイが主人公憧れの作家として物語の中に登場するが、台詞は無い。

評価 ★★★ 

ロンドン・ブールヴァード (新潮文庫)

ロンドン・ブールヴァード (新潮文庫)