海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ラジオ・キラー」セバスチャン・フィツェック

ベストセラーを連発するドイツの新鋭フィツェック2007年発表の第二作。一般市民をも巻き込んだ特異な犯罪の顛末を描く。

ベルリンのラジオ局を一人の男が占拠した。放送を通して、或る条件を満たさなければ、人質を順に殺していくことを告げる。要求は、行方不明となった婚約者を捜し出すこと。だが、その女レオニーは半年以上も前に自動車事故で死亡していた。男は、謀略による擬装された死であることを主張する。爆弾と銃で武装した実行犯の名はヤン・マイ。狂気を秘めつつも、周到な計画や言動から、少なからずの教養を感じさせたが、遂には最初の犠牲者が出てしまう。一方、警察はレオニー死亡時の状況を再調査しつつ、ヤンとの駆け引きを続けるが、上層部は武力突入を強行する人命無視の不可解な動きを見せた。交渉の主担当としてベルリン警察特別出動隊のイーラ・ザミーンが呼び出されるが、彼女自身も大きな問題を抱えていた。不特定多数の聴取者のみが人質の命運を左右する緊迫した状況の中で、事態は予測不能の展開へと急速に流れていく。

サイコ・スリラーという触れ込みだが、序盤早々で知能犯であることを示唆し、以降も猟奇的な犯罪を描くことはない。二重三重にツイストを利かせたプロットはスピード感に満ちるが、アイデアを盛り込み過ぎて、やや雑になっているという印象。主要人物らは、それぞれの動機を抱えて行動するのだが、中には首をかしげる動因もあり、人間はそれほど短絡的ではないという思いがした。
主人公格となる交渉人イーラは、長女が自殺するという心的外傷を抱えたアル中で、常に自殺願望に捕らわれている。追い打ちを掛けるように、人質の中には疎遠となっていた次女が含まれており、子を二人とも失いかねない恐怖のもとで、イーラは決死の交渉に臨んでいく。中盤以降は、イーラとヤンによるトラウマ合戦ともいうべきやりとりが続き、恐らくフィツェックが最も力を入れたパートと感じたが、心理学的な掘り下げが足りず、最後に明かされるイーラの長女が自殺した理由も納得できない。また、ヤンとレオニーの関係性と中途で明かされる過去もご都合主義的な強引さが目立つ。当然、リアリティよりも筋立ての面白さを優先しているのだが、人間の死を軽く考えているような節に加え、どんな状況下でも死なない「不死身」の主人公がいかにも作り物めいて興醒めした。

 評価 ★★★

ラジオ・キラー

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