1986年発表、ほぼ全編にわたりサバイバルが展開する異色作。主人公は、米国空軍少佐ジョー・マカトジ。最新鋭機のテスト飛行中、ソ連GRUの策略で強制着陸させられ、収容所送りとなる。男は機密を漏らすことなく即効脱走する。眼前に拡がるのは、荒涼とした極寒の地シベリア。米国先住民族スー族の直系であるマカトジは、己に流れる血を信じて、アラスカを目指すことを決意する。
ボリュームもあって大いに期待したのだが、読後感は薄い。反体制の徒党との出会いや、束の間のロマンスなど、読者を飽きさない様々なエピソードを絡め、テンポは良い。だが、ラムーアの〝本職〟がウエスタンということも一因なのか、読んでいる最中は常に違和感があった。冒険小説専門の書き手であれば、本領発揮とばかりに力を込めて描く情景があっさりと流れていくのである。厳しい自然の中で生き残るための知恵。追っ手を如何にして欺き、撒いて、機を見て反撃するか。無論、物語はそのように展開するのだが、一向に高揚感がない。熱くならない。マカトジと同様の能力を持つ殺し屋も登場させて、中途で何度も伏線を張っているのだが、対戦することがないままに物語は終わる。これには唖然とした。
本来であれば、限界的状況の中で「野性の血」が呼び起こされていく過程こそが、最大の読み所となる。だが、超人的な生命力を備えている理由は「インディアンだから」のひと言で済ませ、初っ端から異常なまでの能力で逆境を潜り抜けていく。主人公の過去や生い立ちの掘り下げが足りないため、ヒーローとしての魅力が付加されない。強い者は、最初から強い。これでは、漫画と変わらない。
ラストも拍子抜けするくらい淡白なのだが、恐らくこれが「米国の国民的作家」ラムーアの持ち味であり、限界でもあるのだろう。毒にも薬にもならない作品。
評価 ★★