海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「切断」ジョイス・ポーター

1967年発表、ロンドン警視庁ドーヴァー警部シリーズ第4弾で、ポーターの代表作とされている。ユーモアミステリの一種だが、個人的にはブラックな笑いよりも、トニー・ケンリック張りの陽気なスラップスティックが好みなので、残念ながらクスリともしなかった。

ドーヴァーは旅先の田舎町で、岬から身を投げた若い警官を目撃し、成り行きで捜査する。自殺した男は、地元警察署長の甥だったが、普段から素行不良で、怪しげな連中と付き合っていたらしい。その中の一人となる元ギャングの男が、1カ月前に自宅庭で身体を切断された状態で見つかっていた。検死では他殺ではないと断定しているが、死亡後に体を刻まれた理由は不明。死んだ2人に関連性はあるのか。妙なトラブルに多々見舞われつつドーヴァーらは事件を調べるが、やがて町の女たちの異常な集団心理/行動に悩まされていく。
利己主義で無精者のドーヴァーは、嫌々ながらも関係者をあたり、事実を探ろうと試みる。結構な策士でもあり、憐れな部下のマグレガーを囮にして、一旦は謎を解く「冴え」まで見せる。

驚いたのは、真相を明らかにせず、暗示したままに終えていることだ。つまり、完全には解決しないという荒業をやってのける。これでも、ミステリファンらは本作に高い評価を与えているのだから、懐が深い。
女流作家ならではの「男」という生態への痛烈な皮肉と攻撃。曲者ポーターの本領発揮といったところか。

評価 ★★★

切断 (ハヤカワ・ミステリ文庫 32-1)

切断 (ハヤカワ・ミステリ文庫 32-1)