海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「珍獣遊園地」カール・ハイアセン

1991年発表作。ハイアセンは、常に環境問題を物語の基底とし、米国内での著しい自然破壊の象徴/指標ともいえるフロリダを舞台にしてきた。中でも、実質的なデビュー作となる「殺意のシーズン」は、傲慢な開発者らと闘う男の姿を熱く活写し、哀しくも美しいラストシーンでの無常観が今も心に残る名作である。以降、同地出身ジャーナリストの使命であるが如く、シニカルな社会批判を織り交ぜつつ、過激なユーモアに満ちたエンターテインメント小説を上梓し続けている。本作も、その立ち位置は明確で、著者の分身ともとれる元新聞記者ジョー・ウィンダーを通して、風刺を効かせたストーリーの中に、力強いメッセージを込めている。

珍しい動物を誘客の目玉とした南フロリダのテーマパーク「アメイジング・キングダム」。大騒動は、遊園地が地球最後の2匹として喧伝していたハタネズミが盗まれたことを切っ掛けに起こる。仕組んだのは、好戦的な環境保護団体代表の老女。裕福な女性ばかりが集うこの集団は、抱負な軍資金をもとに勝ち目のない訴訟を次々と起こしていた。絶滅危惧種の盗難は、遊園地の運営企業にダメージを与えるはずだったが、老女の依頼を受けた間抜けな泥棒二人組は、逃走中にハタネズミを殺してしまう。「キングダム」は懸賞金を出して小動物を探すが、実は既に死んでいることを承知していた。さらに、園内で死んだシャチの胃袋から、行方不明になっていたハタネズミの研究者が発見され、事態は大きく動き始める。経営陣の不可解な対応に疑念が生じていた広報担当のウィンダーは、素性の怪しい親会社のオーナー自身が絡んだ不正の証拠を掴む。やがて反抗的態度でクビになった元新聞記者の男は、自然を守る側に立つことを決意。元フロリダ州知事で世捨て人の怪人スキンクの協力を得ながら、「キングダム」転覆へ向けた策略を容赦無く実行していく。

数多の奇人変人が入り乱れ、先の読めない展開は、スピード感と躍動感に満ち、ハイアセンの真価を発揮している。カネや名誉のみを糧として生きる人間の醜態、その末路は概して憐れであることを、強烈なファルスに組み込み、あらゆる破壊の元凶である人間の業を徹底的に紛糾/粉砕する。「夢」を売り物に自然環境までも独占し、暴力的に激変させていく巨大資本、いわば〝ディズニー的〟に擬装された楽園の実態を暴くと同時に、見せ掛けの美と楽に幻惑された大衆の愚かさも描き出していく。


急激且つ大規模なリゾート/土地開発などにより、無惨に失われていく自然と死滅する生き物。森林や海は、ゆくゆくは再生するかもしれない。だが、滅んだ生物は二度と甦ることはない。全ては、人類のエゴイズムであり、それを止められるのも人類でしかない、という楽観論がいつまで通用するか。いつかは報いを受け、人間そのものが淘汰される日が来るかもしれない。

評価 ★★★

 

珍獣遊園地 (角川文庫)

珍獣遊園地 (角川文庫)