海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「プロフェッショナル」ウォルター・ウェイジャー

1982年発表作。結論から述べれば、緊張感に乏しい凡庸なスリラーだ。卓越した技倆を持つ殺し屋同士の対決を描くという本筋は、新鮮味はないものの、料理の仕方で幾らでも美味にできる設定。だが、骨格が柔な上に、肉付けした部分がひたすらに薄く、不味い。著者は、スパイ/冒険小説ファンが何を望んでいるかを勘違いしている節があり、そのズレが徐々に拡がっていくさまが、或る意味ユニークとは言えるのだが。

長年にわたりCIAの暗殺者として〝貢献〟したチャーリー・ダンは、引退後は素性を隠して生活していたが、或る日、元上司からフリーランスの殺し屋排除の依頼を受ける。今はソ連の仕事を請け負っていたその男スポールディングは、かつてダンが鍛え上げた弟子で、米国諜報機関に内通者を得て、冷戦の情勢を左右する脅威となっていた。ダンは渋々、ヨーロッパへと飛ぶ。

主人公はリアリティの無い殺し専門のジェイムズ・ボンドもどき。文章は簡潔でテンポは良いが、底が浅い。主人公がいかに凄腕であるかを、敵味方が折につけ賞賛する。それ以上に、本人自らが己のプロフェッショナルぶりを高らかに自慢する。敵の行動を数手先まで読む頭脳も持つらしいのだが、まるで伝わらない。どうにも能天気な人物で、何故かCIAの特命を帯びてダンに随行する女性獣医と終始いちゃつきながら、マンハントの現場へと向かう。その余裕は〝流石〟だが、玄人としての矜持は皆無である。

終盤に向けての盛り上がりにも欠け、主人公の嫌味な部分のみが刷り込まれていく。よほど人材が不足しているか、米ソ諜報機関の間抜けぶりも際立つ。物語の中盤辺りでは、既に二人の対決に興味を失っていた。最後の対戦も拍子抜け。何より、世界中で恐れられている暗殺者が二丁拳銃の使い手とは、仰天である。
ウェイジャーは旅行と美食が趣味らしく、無意味なシーンを要所要所に強引に差し込んでいる。読み終えて、ようやく気付く。本作は、パロディだったのだろう。まんまと騙された。

評価 ★

 

プロフェッショナル

プロフェッショナル