海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「コーマ - 昏睡 -」ロビン・クック

医学サスペンスの第一人者クック1977年発表のデビュー作。
ボストンの大病院で、患者が脳死に至る事故が相次ぐ。何れも麻酔を施した手術後に昏睡状態へと陥り、最終的には植物人間と化していた。原因は不明。同病院の実習生スーザン・ウィラーは、通常であれば起こり得ない事態に疑問を抱き、過去に遡ってデータを調べ始める。外科や内科、麻酔科の権威らと対峙し果敢に追求するも、激しい抵抗に遭う。事故の起こった場所が特定の手術室であることを掴んだスーザンは、麻酔ガスを送る設備に細工された跡を見つける。さらに、昏睡状態の患者らは、或る研究施設へと一様に運ばれていることを知る。一線を超えたスーザンは、必然的に殺し屋を引き寄せた。

難解な医学用語が氾濫するが、プロット自体はシンプルなため、流すだけでいい。
本作の核は、終盤で暴かれる真相そのものにあり、現代にも通じる極めて重い課題を投げ掛ける。物語自体はサスペンス主体で、あくまでも娯楽性を重視しているが、或る種閉ざされた世界でもある医療現場の裏側、1970年代の執筆時、近い将来に起こり得る事案に鋭くメスを入れている。実際、程度の差はあるが、いま現実に〝闇のビジネス〟として公然と行われている事象である。
飛躍的な医術の進歩。資本主義社会に於いては、その恩恵が平等に授けられる訳ではない。富める者と貧しき者、権力を持つ者と持たざる者の歴然とした格差が、命さえも換算していく。一方は〝人身御供〟と同義となる売買の対象と成り果てて。
物語の後に「著者覚え書き」で記したクックのアクチュアルな警鐘は、今もなお古びてはいない。

評価 ★★★

 

コーマ―昏睡 (ハヤカワ文庫 NV 326)

コーマ―昏睡 (ハヤカワ文庫 NV 326)