海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「クラッシャーズ」デイナ・ヘインズ

ジェット旅客機墜落の真相を探るチームの活躍を、読み手の度肝を抜く壮大なスケールで描いた2010年発表作。謎解きと活劇の要素を巧みに織り交ぜ、劇的な場景を随所に盛り込み、全編ハイテンションで展開。筆致は極めて映像的で、ハリウッド映画張りの娯楽大作として楽しめる。ネルソン・デミル絶賛の栄誉は伊達ではない。

ロサンゼルスに向かうカスケード航空818便が墜落した。乗員乗客は、ほぼ全滅。ポートランド国際空港から離陸直後に制御不能へと陥り、爆発炎上していた。凄惨な現場にいち早く駆け付けたのは、米国運輸省/墜落事故調査班〝クラッシャーズ〟一員の病理医トムザック。僅かな生存者の状況から、爆発時の機体には妙な法則があったことが分かる。やがて、主席調査官タナカの采配で、続々とメンバーが集結した。元海軍潜水艦ソナー員で音声解析担当のデュヴァル、元刑事で爆発物専門家ロビー、元エンジニアの機体構造分析家マローニー、エンジン分析担当のキムなど。最先端技術に長け、経験と技倆は折り紙付きのプロフェッショナル集団だったが、調査開始早々、袋小路に入り込む。機体の異常か、操縦士の人為的ミスか、原因が特定できない。一方、〝リハーサル〟を計画通り成功させたアイルランド系テロリストの一派は、〝本番〟となる次の飛行機爆破に向けて準備段階に移る。その不穏な動きを察知した一人の女がいた。元イスラエル潜入捜査官ギブロンは、連邦捜査機関の協力者でもあったが、予測不能の行動をとり捜査関係者を撹乱した。
物語は、墜落事故の謎を追う調査班と狡猾なテロリストの息詰まるような攻防を追い、加速度的に疾走する。

数多い登場人物を適切に配置し、任務遂行に邁進するプロの仕事を余すことなく伝える。内部に裏切り者がいるかもしれない、というベタな設定も生きている。発端から結末までの流れは起伏に富み、徐々にボルテージを上げていく構成も練られている。同時進行で刻一刻と変わる情況を、調査班とテロリスト双方の側から的確に活写、直接対決も含めて山場が連続する。〝クラッシャーズ〟内部での軋轢、政府機関やメディアとの駆け引き、航空機業界の内幕など、様々なドラマを挟みつつ分厚い物語に仕上げた作者の腕は相当なものだ。
ただ、冒頭の悲惨な墜落現場の描写は、読み手によって或る程度の忍耐を強いるだろう。さらに、現代テクノロジーの結晶である航空機が、もはや操縦士の技倆如何で制御できる代物ではなく、そのシステムが常に危険と隣り合わせだという〝脅し〟も怖い。

評価 ★★★★★ 

クラッシャーズ 上 墜落事故調査班 (文春文庫)

クラッシャーズ 上 墜落事故調査班 (文春文庫)

 

 

クラッシャーズ 下 墜落事故調査班 (文春文庫)

クラッシャーズ 下 墜落事故調査班 (文春文庫)