海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ディーバ」デラコルタ

1979年発表、フランスの覆面作家デラコルタの犯罪小説。パリを舞台にギャングらと渡り合う若者の行動をシャープな文体で描く。
類稀なる歌声でオペラファンを狂喜させていた米国黒人歌手シンシア。彼女はディーバと呼ばれるに相応しい才能を持っていたが、レコードとして商品化することは一切拒否していた。フランスでの公演時、ディーバに恋い焦がれる青年ジュールは密かにコンサートを録音。それはディーバの貴重な音源となり、間もなくその存在が明るみに出る。例え海賊版であろうとも是が非でも手に入れたいレコード会社はジュールを付け狙い、暴力も辞さない強硬手段に出る。同時期、闇組織のボスに囲われていた女が犯罪を曝いた口述をテープに吹き込んでいた。女は逃走中、ジュールのバイクの籠に投げ入れた。図らずもジュールは二つの集団から追われる羽目となる。

訳者あとがきによれば、本作では脇役に回る中年男ゴロディッシュと少女アルバのコンビを主役とするシリーズ2作目で、評判を呼んだ映画化を機に翻訳されている。ノワールタッチでサスペンスを主体に構築しているが、本作の魅力はパリの街並みを物語を通して体感できることだろう。ディーバと青年のそこはかとないロマンスも、情景をスマートに印象付ける。他の作品が未紹介のままとなっているのは残念だ。

評価 ★★★

ディーバ (新潮文庫)

ディーバ (新潮文庫)

  • 作者:デラコルタ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1983/11
  • メディア: 文庫