海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「心を覗くスパイたち」ハーバート・バークホルツ

1987年発表作。コンセプトは邦題の通りで、他人の思考が読み取れる特殊能力を持ったスパイたちの工作活動と葛藤を主軸にストーリーが展開する。SF的要素を生かすには、それ相応の腕が必要だが、概ね違和感なく組み込んでいる。
特異な能力を備えた人間が一定の確率で生まれるという前提で、米国政府は〝発見〟した少年少女を特別施設に収容し、スパイとして育成する。だが、その異能故か、30歳を越えると例外なく死を迎えた。異能者らは当然のこと「生きる期間が限られている」という宿命に抗い、真相を求める。物語後半では、母体となる組織との闘いを描いていくのだが、今更感が強く、活劇的要素も弱いため盛り上がりに欠ける。また、敵味方に分かれたスパイ同士の悲恋も描いているのだが、筋運びが強引な部分もあり、感傷が流れない。同設定の続編2作が翻訳されているが、個人的にはこのアイデアは単発で充分と感じた。創作時期は冷戦末期にあたり、パロディではなく、シリアスな物語として仕上げていることからも、共産圏という仮想敵を失いつつあった西側スパイ小説の書き手らの試行錯誤ぶりが伝わる。
諸種の内幕物によれば、実際にCIAやKGBは〝超能力〟の研究に取り組んでいたらしい。謀略に明け暮れた巨大諜報機関が、非科学的分野に没入するほどに覇権争いの行く末が見えなかったということか。

評価 ★★☆

心を覗くスパイたち (新潮文庫)

心を覗くスパイたち (新潮文庫)