海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ジョニー&ルー/掟破りの男たち」ジャック・ソレン

〝元義賊〟男二人組の活躍を描いたスリラー。シリーズ化しており、本作は2014年発表の第1弾。

失われた世界的名画。彼らは、それを不当に所有する収集家から奪い返し、美術館と保険会社から莫大な報奨金を得ていた。盗み出した現場に「モナーク(君主の意)蝶」の標しを残したことから〝君主〟と呼ばれていたが、或る日を境に足を洗った。数年後、ニューヨークの美術館界隈で猟奇的な連続殺人事件が発生。死体にはいずれもモナーク蝶が刻印されていた。間もなくして各報道機関に〝君主〟の所業を追った本が届く。著者は外国籍の女性ルポライターだったが、事件との関わりを否定、自著を送り付けた覚えもないという。再び世間が沸き返る中、最も困惑していたのは、当の〝君主〟二人だった。元スパイのジョニーはシングルファーザーで子育て奮闘中、もう一人の元特殊部隊員ルーは別件で服役中だったが、一報を聞いて脱獄する。久々に再会を果たした二人は、事の真相を探るべくニューヨークへ向かう。やがて浮かび上がってきたのは、君主への復讐に執着する大富豪の狂った計画だった。ジョニーとルーは汚名をそそぐべく、仕組まれた罠の中へと飛び込んでいく。

 終始お気楽ムードが漂い、着想も悪くない。けれども、かなり雑な仕上がり。スリラーに不可欠な素材は揃えており、テンポも良いのだが、勢いのままに書き飛ばした感じだ。状況説明を大胆に省くため、矛盾を生じさせたままで物語が進む。最大の欠点は、主役二人の技量を読み手に伝える見せ場が殆ど無いことだ。ジュニーとルーは、固い信頼関係を築いているのだが、仲違いなどを経験して更に絆を深め合うコンビ物では〝不可欠〟なシーンもないため、今ひとつ盛り上がらない。他の登場人物も深みがなく、ヒロインの行動も解せない点が多い。黒幕となる大富豪が不治の病に侵され、助かる唯一の鍵を主役側が握るという設定も新鮮味に欠ける。しかも、肝心の命綱が〝007〟真っ青の荒唐無稽ぶりで脱力する。アイデアを熟成させず、全体的にまとまりがないため、終盤の活劇が浮いてしまっている。面白い物語を書きたいという作者の意気込みは伝わるが、小説の技巧が熟れていないため、残念ながら完成度は低い。

 評価 ★★