海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「用心棒」デイヴィッド・ゴードン

新鋭ゴードン、2018年発表作。やや自分の色を出し過ぎて無骨さも目立った前作「ミステリガール」に比べて、構成が引き締まり、全体的にシャープになった印象。変化球を投げ込むオフビートな手法も熟れてきている。テンポ良く勢いのままに読ませる好編に仕上がっており、筆致には自信と余裕さえ感じる。

ニューヨークのストリップクラブで働く用心棒ジョー・ブロディーは、FBIと市警察による一斉手入れの煽りを受けて職を失った。街に潜伏するテロリスト捕獲を狙ったものだったが、その界隈で〝営業〟する闇組織にとってはいい迷惑だった。店のオーナーでマフィアの親玉ジオ・カプリッジは、捜査を主管するFBIのドナ・ザモーラを訪ねて、テロリスト摘発に進んで協力することを申し出た。ジオは、一帯のギャング組織を束ねた上で、旧友でもあるジョーを役立てるつもりだった。一方、ジョーは、留置所で出会った旧知の小悪党から誘われ、武器強奪の仕事を請け負う。だが、事は容易には進まなかった。情報はFBIに洩れており、銃撃戦となって死人を出す。現場には捜査官ドナもおり、ジョーは口封じの機会があったにも関わらず、彼女を見逃した。犯罪者らは、何とか逃走する。襲撃時、武装強盗のプロであるクラレンスの命を助けたことから、ジョーは計画中の犯罪に加わるよう声を掛けられる。莫大なカネを手に出来る大仕事。武器の略奪は前哨戦に過ぎなかった。しかし、次こそ甘くはなかった。

「用心棒」というタイトルだが、主人公は犯罪グループの一員として行動することの方が多い。導入部では一種のヒーロー小説かと思わせ、一転してリチャード・スターク張りのクライムノベルへと移行する。終盤でさらに変転し、序盤での伏線となる対テロリストの闘いへと流れていく。

「悪党パーカーシリーズを手本にした」とゴードンが述べている通り、簡潔でリズミカルな文体によって臨場感溢れる活劇シーンを展開。犯罪者らの造形もB級テイストを貫いている。ただ、ハーバード大中退、ドストエフスキーを愛読する頭脳明晰な元特殊部隊員という主人公の設定は、存分に生かされているとはいえない。シリーズ化を意識していたらしく、レギュラーとなりそうな個性的人物を多数配置。FBI捜査官ドナとの関係など、次作に繋がるエピソードを散りばめている。気を衒うような〝遊び〟を盛り込んだデビュー時のインパクトがやや弱まったことは惜しいが、この先どこまで洗練されていくか楽しみではある。
どうやら、2021年4月に「続・用心棒」が翻訳出版されるらしい。

評価 ★★★