海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「傷痕のある男」キース・ピータースン

ピータースンが80年代後半から発表した新聞記者ジョン・ウェルズシリーズは、現代ハードボイルドの新たな収穫として高い評価を得た。くたびれてはいるものの正義感に溢れた中年男の語り口がとにかく絶品なのだが、残念ながら4作品で途絶えたままだ。1990年上梓の本作は、サスペンスに重点を置く作風へとシフトした最初の作品で、次作からは本名のアンドリュー・クラヴァン名義で創作活動を続けている。
25歳の若い記者による一人称スタイル。過去と現在、幻想と現実が絡み合いつつ、二転三転するプロットは周到に練られており、加速したまま終盤へと雪崩れ込んでいく。序盤での恐怖感を伴う不可解な謎を中盤までに解き明かし、無実と思しき死刑囚をどう救うか、というタイムリミット型サスペンスへと流れる。これは後の傑作「真夜中の死線」(1995)でさらに主題を深めているのだが、読み手を引き込む技倆は、本作でも存分に味わうことができるだろう。芳醇な味わいは抑え気味なものの、洗練された文章が心地良い。巧い作家だ。

評価 ★★★★