海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「夜の終わり」ジョン・D・マクドナルド

1960年発表作。当初、混同する筆名を用いたロス・マクドナルドとのエピソードで、名前だけが先行していた〝もう一人のマクドナルド〟。その本格的な紹介が本作から始まっている。当時の読者は、その実力に驚いたことだろう。このマクドナルドも凄いと。

冒頭に置いているのは、或る看守の手紙だ。それは死刑囚4人の刑執行を事細かく伝えるものだった。男3人と女1人からなる連続殺人犯。読み手は、後に何度も読み返すことになるだろう。つまり、電気椅子へと向かう彼らの様子から、事件に繋がる殺人者たちの人格と狂気を、この最初の部分から読み取ることができるからだ。
このショッキングな幕開けから、一気に引き込まれていく。物語は過去へと遡り、主犯格の男スタッセンに焦点を当て、凶行に至るまでを追う。

構成は練られており、主に三つの視点で時間軸をずらしながらストーリーは進む。スタッセンの獄中記、被告側弁護士の手記、事件を記録した執筆者の叙述。これを交互に挿入していくのだが、大きくボリュームを占めるのはスタッセンの独白である。最初はただの世間知らずのやさぐれた男だが、放蕩する中で徐々に狂気の度合いを増す。極めて凡庸だったスタッセンは、或る事件を機に変貌。そして、あとに〝群狼〟と呼ばれることになる他の三人と組み、残虐な犯罪に走る時点から、完全なる異常者と化す。その荒んだ精神状態は明確に語られることがない。それだけに、より一層不気味さが増している。動機無き蛮行を繰り返していく群狼らは、行き当たりばったりの無計画であるがために捜査陣を混乱させ、なかなか尻尾を掴ませない。だが、地獄の門は着実に近付きつつあり、遂には「夜の終わり」を迎える。

本作はドキュメントタッチの犯罪小説ではあるが、今ではノワールに組み込まれるかもしれない。マクドナルドの視点/筆致は終始醒めており、登場人物らを冷酷なまでに突き放している。感情移入を妨げているが故に、かえって異様な迫力を生じさせるのである。
ラヴィス・マッギーシリーズが始まる3年前に、こんな快作を著しているジョン・D・マクドナルド。やはり只者ではない。
評価 ★★★