海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2016-11-01から1ヶ月間の記事一覧

「ゲルマニア」ハラルト・ギルバース

評判が良く期待して読んだが、序盤からかなりもたつく。まず、文章が淡白なことが最大の欠点だろう。読み進んでも、登場人物らの顔が浮かんでこず、全体的に造形が浅いと感じた。物語の舞台となるのは、ノルマンディー上陸作戦の直前、敗色濃い第二次大戦末…

「スマイリーと仲間たち」ジョン・ル・カレ

スマイリー三部作完結編で、旧ソ連の宿敵〝カーラ〟との最終的決着までを描く。重厚な筆致は更に磨きが掛けられており、ル・カレ独自の世界がゆっくりと始動する。前作の漠然とした分かりにくさは消え、より引き締まった構成ではあるが、集中力を欠くと挫折…

「警鐘」リー・チャイルド

第1作があまりに完璧過ぎるため、後に続く作品が物足りなく感じるシリーズは、さほど珍しくない。読者に好評であれば、当然出版社は同じ主人公による継続を求め、著者は期待に沿うべく書き続けるのだが、エンターテイメント性を高めようとして、逆に失敗す…

「フォックス家の殺人」エラリイ・クイーン

「僕は満足していません」12年以上前に妻殺しの罪で終身刑となった男。その無罪立証のために再調査の依頼を受けたエラリイ・クイーンが、事件当日の状況を再現した後に吐く台詞だ。あらゆる事実が状況証拠の裏付けをし、男の犯行であることを、あらためて示…

「隣の家の少女」ジャック・ケッチャム

これまで少なからずの小説を読んできたが、この作品以上に嫌悪感を覚えたフィクションはなかった。とはいえ、著者の筆力は大したもので、非道の行為を延々と単純に描いただけのストーリーを最後まで読ませる力量は認めざるを得ない。が、同時に相当の忍耐を…

「ランターン組織綱」テッド・オールビュリー

1978年発表作。派手さはないが、戦争によって引き裂かれた一家族の悲劇を描いた佳作。愛する者のために自ら犠牲となる、その覚悟は凄まじくも悲哀に満ちている。 英国警視庁公安部のベイリーはスパイ容疑のかかった男、ウォルターズの自宅を訪問する。確証も…