海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「殺したくないのに」バリ・ウッド

繊細且つ鋭利な心理描写を縦横に駆使したサイキック・スリラー。とにかく濃密な空気感には圧倒された。恐怖心を煽る技巧が秀逸で、下手なホラー小説よりも格段に怖い。ニューヨーク市警スタヴィツキー警部は、長年追っていた犯罪者の死を知った。その男、ロ…

「雷鳴」ジェイムズ・グレイディ

1994年発表作。スパイ映画の秀作「コンドル」の原作者グレイディが〝お家芸〟となるCIA内幕を題材としたスリラー。 主人公はCIA局員ジョン・ラング。ある朝、同局員で友人のマシューズが流れ弾を浴びて死んだ。公には事故として処理されたが、明らかに…

「消えた錬金術師」スコット・マリアーニ

ベン・ホープシリーズ第1弾で 2007年発表作。いかにも英国人好みの高潔で高貴な男を主人公に据え、歴史ロマンを絡めたアドベンチャーを展開する。ホープは本作の時点で37歳。元英国陸軍特殊空挺部隊(SAS)の隊員で、現在はフリーランス。主に誘拐された…

「ボーン・マン」ジョージ・C・チェスブロ

実力派チェスブロの1989年発表作。娯楽的要素を盛り込んだ一味違うスリラーで、埋もれたままにしておくのは惜しい秀作だ。 激しい雨が降り続いていたニューヨーク/セントラル・パーク。その一角で憔悴した状態の浮浪者が市に保護された。男は入院後しばらく…

「死体が転がりこんできた」ブレット・ハリデイ

1942年発表のマイアミの私立探偵マイケル・シェーン第6弾。同年にチャンドラーが「大いなる眠り」を上梓、ハードボイルド小説隆盛期に当たる。戦時下ということもあり、暗躍するナチスのスパイを絡め、この派にしては珍しくプロットに凝り、捻りを利かせて…

「ツンドラの殺意」スチュアート・カミンスキー

ソビエト連邦崩壊前、極寒のシベリア地方の小村を舞台とした異色の警察小説。エド・マクベイン「87分署シリーズ」へのオマージュらしいが、終始暗鬱なトーンに包まれており、アイソラの刑事たちが醸し出す躍動感は無い。歪んだイデオロギーが暗流に淀み、自…

「航空救難隊」ジョン・ボール

1966年発表の航空冒険小説の名作。シンプルなストーリーだが、その分密度が濃く、空に生きる男たちの熱い血潮が全編にわたり滾る。カリブ海の孤島トレス・サントスに、かつてない規模のハリケーンが接近していた。ここを拠点とする民間航空会社のスタッフは…

「暗闇にひと突き」ローレンス・ブロック

マシュウ・スカダーシリーズ、1981年発表の第四弾。まだ無免許探偵が酒を呑んでいた頃の話で、男はこの後「八百万の死にざま」で大きな転機を迎えることとなる。 9年前に起こった女性連続殺人。既に犯人は投獄されていたが、ただひとつ犯行を否定した事件が…

「標的の原野」ボブ・ラングレー

1977年発表の処女作。不条理な誘拐事件を発端とする本作は、中盤まではサスペンスが基調、後半に至り極寒の山岳を舞台にマンハントが展開する。ただ、冒険小悦としてはまだ萌芽のレベル。人物造形の浅さや、余分と感じるエピソードの挿入で物語の密度が弱ま…